詰め物セット後の、はみだしたセメント。放置されると…。
こんにちは。
桜の開花宣言もされはじめ、暖かい日も増えてきました。
いかがお過ごしでしょうか。
日によって気温が変わる時期、体調管理には気をつけましょうね。
今日は、詰め物やかぶせ物を歯にセットする時の接着剤(セメント)について、お話します。
くっつけたらそれでおしまい!ではなく、その後のもうひと仕事がとても大事です。
いきなりですが、これ、なんだかわかりますか?
約2ミリ弱の固い塊です。
これは・・・
この患者さまが、以前、歯に詰め物をセットした時の、
はみ出たセメント(接着剤)の取り残しです。
セットして以来、何年間もの間、詰め物の脇に残り続けていたようです。
それを数年ぶりにお口から取り除いたのが先ほどの写真。
実際のお口の中では、歯ぐきの中にあるので、見る事はできません。
詰め物や被せ物は、セメントで歯につけるのですが、その際、
余ったセメントが歯の周りにあふれ出ます。
こちらは仮歯をセットしてあふれた仮歯用セメント。
こちらはセラミックス用のセメント。
セラミックス用のセメントは、とっても硬く、歯にしっかりつくので、
はみ出した分を取るのも、大変な事があります。
セットの際には、はみ出た状態で固まるのを待ち、
固まった後に、はみ出た余分のセメントを取り除きます。
器具でカリカリと取り除くのですが、歯と歯の間にあふれ出たセメントはとても硬い上に、
実際のお口の中ではとても見ずらく、完全に取り除くのに苦労する事があります。
セメントを取り残してしまうと・・・
もしも取り残した場合、時間の経過とともに自然に取れてくれる事はまずありません。
残ったセメントは細菌の住みかになり、むし歯や歯周病の原因になり続けます。
実際に、セメントを取り残したままになっていて、言わばそのセメントが人工的な歯石の役目を果たしてしまい、歯周病を発症している事がたまにあります。
取り除くのが難しい場所
- 歯と歯の間
- 歯肉溝(歯周ポケット)の中
1.歯と歯の間
歯と歯の間にあふれたセメントは、取りきるのが難しいです。
その理由は、
歯と歯の間は暗く狭いため、見にくいからです。
さらに、この空間に唾液があるままだと、中は全く確認できません。
今回の写真のセメントは、まさに、歯と歯の間に長年残り続けていました。
この部分は、
- よく乾燥させて
- ルーペや顕微鏡を使った高倍率の拡大視野で
- 光を届けて
はじめてよく確認できます。
拡大してよく見えているので、もう歯の間に残っていないことが見えます。
残っていないことが見て確認できているので、もう取る必要がない、と判断できます。
「そんなの当たり前なのでは?」と思いましたか?
裸眼での歯科治療が、このように見えていない治療だとしたら、どう思いますか?
その部分をよく見えていなければ、処置のやめどきの判断はどうするのでしょう。
取り切ったから、取れてこないのか、
まだ残っているのに、取りにくい部分に付いているから、取れてこないのか。
見えていなければ、判断できませんよね。
しかし実際には、裸眼による処置では、
「もう取れてこなくなったから、取り切れた」
と判断する以外、方法はないのかもしれません。
本当は残っていたのかを、確認することすらできません。
2.歯肉溝(歯周ポケット)の中
ポケットの中に入り込んだ、1mmに満たない大きさの余分のセメントも、
丁寧に取り除く必要があります。
歯周ポケットの中に入り込んで固まったセメントは、
根の表面に硬くくっついてしまいます。
そのままにすれば、そのセメントの表面は細菌の足場になり、歯周病に直結します。
しかし、ポケットの中は、裸眼ではほとんど見えませんので、
セメント取り残しの確認は十分にできません。
裸眼での診療では、手探り、手の感覚メインで行うことになります。
したがって、高倍率の拡大視野下で、よく見えた状態の治療、つまり、
手の感覚だけに頼らない「見えた状態での」治療を受けるのが理想です。
私は、診療では全ての診査、治療に8倍拡大ルーペとLEDライトを使っています。
2−5倍あたりの倍率とは、別の世界が見えます。
以前は3倍を使っていましたが、見えている世界の違いを実感します。
拡大の大切さは、患者さまにとって、分かりにくいかもしれませんが、
治療の質に関わるとても大切な部分です。
ご自身がどんな視野での治療を受けているか、確認してみてください。
ここからの写真はセメントの取り残しではなく、歯石が見えている写真ですが・・・。
裸眼では、視力のいい人がどれだけ顔を近付けても、ポケットの中は見えません。
適切にライトを当てて、拡大して初めて見える、病気の原因。
乾燥させることも大切なポイントです。
病気の原因、歯石が見えれば、あとはそこに器具を当てて取るだけ。
見えなければ手の感覚メインで処置を行います。
歯石が取れなければ、ポケットの中には原因が残り続けることになりますので、
たとえ歯磨きが完璧でも、歯周病は治りません。
歯周病を完治させるのが難しいのは、この辺りにも原因があるとも、言われています。
セメントを取り残さないために
セット後、セメントの取り残しを防ぐためには、
- よく乾燥させて
- 高倍率の拡大視野下で
- 光を届けた状態で
行うことがポイントです。
実際には、
- 唾液を乾燥させ、
- 拡大視野でよく見ながら取り除く
- 洗い流す
- 乾燥させる
- 拡大視野で取り残しを確認
- まだ残っていれば再度取り除く
- 洗い流す
- 取り切るまで、繰り返し・・・
と、細かく行います。
セメントをとるだけでも、結構時間がかかる事ですが、
その歯の予後に大きく影響する大切な内容です。
セットしてひと安心する前の、とても重要な部分です。
また、次回来院時にも再度確認し、セメントの取り残しによる歯肉の炎症がないかを、確認します。
拡大さえすればいい治療が行えるわけではありません。
他の様々な要素の総合力で、皆さんのお口を守るお手伝いができます。
ルーペや顕微鏡による高倍率の拡大診療は、総合力を上げるための最低スペックだと考えております。
記事で書くと、はみ出した接着剤を取るだけ。という、とても当たり前のことに見えます。
でも、当たり前のことを確実に行うためには、適切な知識と技術の研鑽が必要です。
その積み上げが、良好なお口の中につながり、
お口のトラブルで困らない人生へと結びつきます。
一番大事なのは、予防すること。
でも、悪くなってしまってからでも、ちゃんと治せば、お口の中は維持できます。
患者さまに出来ることは、
歯科医院選びと、セルフケア。
信頼できる歯科医院をかかりつけにして、大切なお身体を守りましょう。
皆さまが快適なお口で、楽しい毎日を過ごせますように
藤井歯科医院・副院長
藤井芳仁
名古屋市天白区植田
歯周病、インプラント、審美歯科、歯内療法、予防歯科、総合治療の
「大切な歯をできるだけ削らない、残す」藤井歯科医院