詰め物セット後の、はみだしたセメント。放置されると…。

こんにちは。

桜の開花宣言もされはじめ、暖かい日も増えてきました。
いかがお過ごしでしょうか。
日によって気温が変わる時期、体調管理には気をつけましょうね。

今日は、詰め物やかぶせ物を歯にセットする時の接着剤(セメント)について、お話します。

くっつけたらそれでおしまい!ではなく、その後のもうひと仕事がとても大事です。

IMG_3216

いきなりですが、これ、なんだかわかりますか?

約2ミリ弱の固い塊です。

これは・・・

セメントデンタル

この患者さまが、以前、歯に詰め物をセットした時の、
はみ出たセメント(接着剤)の取り残しです。

セットして以来、何年間もの間、詰め物の脇に残り続けていたようです。
それを数年ぶりにお口から取り除いたのが先ほどの写真。

実際のお口の中では、歯ぐきの中にあるので、見る事はできません。

セメント口腔内3

 

セメント口腔内2

詰め物や被せ物は、セメントで歯につけるのですが、その際、
余ったセメントが歯の周りにあふれ出ます。

 

こちらは仮歯をセットしてあふれた仮歯用セメント。

仮歯用のセメント

仮歯用のセメント

 

こちらはセラミックス用のセメント。

セラミックス用の固いセメント

セラミックス用の固いセメント

セラミックス用のセメントは、とっても硬く、歯にしっかりつくので、
はみ出した分を取るのも、大変な事があります。

 

セットの際には、はみ出た状態で固まるのを待ち、
固まった後に、はみ出た余分のセメントを取り除きます。

器具でカリカリと取り除くのですが、歯と歯の間にあふれ出たセメントはとても硬い上に、
実際のお口の中ではとても見ずらく、完全に取り除くのに苦労する事があります。

 

セメントを取り残してしまうと・・・

もしも取り残した場合、時間の経過とともに自然に取れてくれる事はまずありません。
残ったセメントは細菌の住みかになり、むし歯や歯周病の原因になり続けます。

実際に、セメントを取り残したままになっていて、言わばそのセメントが人工的な歯石の役目を果たしてしまい、歯周病を発症している事がたまにあります。

 

取り除くのが難しい場所

  1. 歯と歯の間
  2. 歯肉溝(歯周ポケット)の中
1.歯と歯の間

歯と歯の間にあふれたセメントは、取りきるのが難しいです。

その理由は、

歯と歯の間は暗く狭いため、見にくいからです。

歯の間は暗くて狭い。唾液があると全く見えない。

歯の間は暗くて狭い。唾液があると全く見えない。

さらに、この空間に唾液があるままだと、中は全く確認できません。

今回の写真のセメントは、まさに、歯と歯の間に長年残り続けていました。

 

この部分は、

  • よく乾燥させて
  • ルーペや顕微鏡を使った高倍率の拡大視野
  • を届けて

はじめてよく確認できます。

拡大してよく見えているので、もう歯の間に残っていないことが見えます。
残っていないことが見て確認できているので、もう取る必要がない、と判断できます。 

 

「そんなの当たり前なのでは?」と思いましたか?
裸眼での歯科治療が、このように見えていない治療だとしたら、どう思いますか?

 

その部分をよく見えていなければ、処置のやめどきの判断はどうするのでしょう。

取り切ったから、取れてこないのか、
まだ残っているのに、取りにくい部分に付いているから、取れてこないのか。

見えていなければ、判断できませんよね。

 

しかし実際には、裸眼による処置では、
「もう取れてこなくなったから、取り切れた」
と判断する以外、方法はないのかもしれません。

本当は残っていたのかを、確認することすらできません。

 

2.歯肉溝(歯周ポケット)の中

ポケットの中に入り込んだ、1mmに満たない大きさの余分のセメントも、
丁寧に取り除く必要があります。

歯周ポケットの中に入り込んで固まったセメントは、
根の表面に硬くくっついてしまいます。

そのままにすれば、そのセメントの表面は細菌の足場になり、歯周病に直結します。

 

しかし、ポケットの中は、裸眼ではほとんど見えませんので、
セメント取り残しの確認は十分にできません。
裸眼での診療では、手探り、手の感覚メインで行うことになります。

したがって、高倍率の拡大視野下で、よく見えた状態の治療、つまり、
手の感覚だけに頼らない「見えた状態での」治療を受けるのが理想です。

 

私は、診療では全ての診査、治療に8倍拡大ルーペとLEDライトを使っています。
2−5倍あたりの倍率とは、別の世界が見えます。
以前は3倍を使っていましたが、見えている世界の違いを実感します。

surgitel8

拡大して見る世界は、裸眼とは別次元です。

拡大の大切さは、患者さまにとって、分かりにくいかもしれませんが、
治療の質に関わるとても大切な部分です。

ご自身がどんな視野での治療を受けているか、確認してみてください。

 

ここからの写真はセメントの取り残しではなく、歯石が見えている写真ですが・・・。

ポケットの中に歯石があります。 裸眼ではどれだけ顔を近付けても、ポケットの中は見えません。

ポケットの中に歯石があります。

裸眼では、視力のいい人がどれだけ顔を近付けても、ポケットの中は見えません。

ポケットの中に歯石があります。

適切にライトを当てて、拡大して初めて見える、病気の原因。
乾燥させることも大切なポイントです。

拡大すれば歯石がよく見えます。

病気の原因、歯石が見えれば、あとはそこに器具を当てて取るだけ。
見えなければ手の感覚メインで処置を行います。

歯石が取れなければ、ポケットの中には原因が残り続けることになりますので、
たとえ歯磨きが完璧でも、歯周病は治りません。

歯周病を完治させるのが難しいのは、この辺りにも原因があるとも、言われています。

 

セメントを取り残さないために

セット後、セメントの取り残しを防ぐためには、

  • よく乾燥させて
  • 高倍率の拡大視野下で
  • を届けた状態で

行うことがポイントです。

 

実際には、

  1. 唾液を乾燥させ、
  2. 拡大視野でよく見ながら取り除く
  3. 洗い流す
  4. 乾燥させる
  5. 拡大視野で取り残しを確認
  6. まだ残っていれば再度取り除く
  7. 洗い流す
  8. 取り切るまで、繰り返し・・・

と、細かく行います。

 

セメントをとるだけでも、結構時間がかかる事ですが、
その歯の予後に大きく影響する大切な内容です。

セットしてひと安心する前の、とても重要な部分です。
また、次回来院時にも再度確認し、セメントの取り残しによる歯肉の炎症がないかを、確認します。

 

拡大さえすればいい治療が行えるわけではありません。
他の様々な要素の総合力で、皆さんのお口を守るお手伝いができます。

ルーペや顕微鏡による高倍率の拡大診療は、総合力を上げるための最低スペックだと考えております。


 

記事で書くと、はみ出した接着剤を取るだけ。という、とても当たり前のことに見えます。

でも、当たり前のことを確実に行うためには、適切な知識と技術の研鑽が必要です。

その積み上げが、良好なお口の中につながり、
お口のトラブルで困らない人生へと結びつきます。

一番大事なのは、予防すること。
でも、悪くなってしまってからでも、ちゃんと治せば、お口の中は維持できます。

 

患者さまに出来ることは、
歯科医院選びと、セルフケア。

信頼できる歯科医院をかかりつけにして、大切なお身体を守りましょう。

 

皆さまが快適なお口で、楽しい毎日を過ごせますように
藤井歯科医院・副院長
藤井芳仁

名古屋市天白区植田
歯周病、インプラント、審美歯科、歯内療法、予防歯科、
総合治療の
「大切な歯をできるだけ削らない、残す」藤井歯科医院