奥歯のセラミック治療(前編:むし歯治療〜型取り)

こんにちは。
今日は、日々最も多く行う治療のうちの一つ、セラミック治療についてご紹介します。

私がここ数年で学び、今のところベストだと考えている方法です。


実際に、セラミック治療期間中どのステップでも、

  • 治療後の痛み
  • セラミックセット後の欠けたり、外れるなどのトラブル

は、ほとんどありません。

治療前です。
今回治療する歯は、一番左の歯です。

患者様は、隣の歯との間にフロスを通すと引っかかってしまうことにお困りでした。
原因は、隣の歯に面している銀歯の適合不足でした。

また、銀歯全周の適合不足によって細菌の侵入があり、このまま使い続けるには歯のダメージが大きいと予測されます。

患者様はそれらの問題点を改善するために、治療をご希望なさいました。

ほっぺた側から
上あご側から

↓今回の治療のポイントです↓

  1. 健康な歯
    ほっぺた側の銀歯と歯ぐきの間には、健康な歯(エナメル質)が残っています。
    歯ぐきの健康のためにも、セラミックの境界として細菌への抵抗性のためにも、エナメル質を残しておきたい部分です。
    今回はエナメル質を十分に残して治療を終えられそうです。
  2. 隙間
    銀歯と歯の境界に隙間があります。
    このような隙間から細菌が侵入してしまうので、改善するポイントです。
  3. 十分な厚み
    歯を残すためには、十分な厚み、強度があることが大切です。
    ほっぺた側に残っている歯の厚みは、治療前の段階では十分にあります。
    銀歯を外した段階でむし歯の広がりが少なければ、この厚みは残せそうです。
  4. 十分な厚み
    上あご側に残っている歯の厚みも、治療前は十分です。
    上の奥歯は、この部分の山が、下の歯の谷と強く咬み込みます。
    なので、この部分には、その力に耐えられるだけの十分な強度=厚みが必要です。
    ここも、銀歯の中のむし歯が大きくなければ残せそうです。


このように治療前には、その歯が持っている問題点や、治療中に考える必要がありそうな部分を、よく観察して把握しておきます。

そうすることで、治療の流れをあらかじめ予測したり、事前に準備するべき器具をアシスタントに指示を出しておくこともできます。


治療を、行き当たりばったりではなく、迷いなくスムーズに行うために大切なステップです。

実際に観察しているのは、5−10秒くらいだと思いますが、大事な時間です。


次のステップは、

ラバーダム防湿です。

次に、
クリーニングする汚れを見えるように染色液をつけ、
清潔な水で洗い流して残った色の部分が、特にクリーニングをしっかりしたい部分。
パウダーと清潔な水を強い空気圧で吹き付けて、全ての汚れを落とします。

これで、歯の内部を触るための環境作りが終わりました。


これは、医科の外科手術に置き換えた場合には、

医科:「オペ室で」
歯科:「ラバーダム防湿環境下で」

医科:「これからメスを入れるお肌を消毒する」
歯科:「歯やラバーの表面をクリーニングする」

に相当します。


当たり前のことに見えるかもしれませんが、このような一つ一つの基本を確実に抑えていくことが、治療結果の長持ちにつながります。


歯の中には血液が流れていない、つまり、免疫力がありません。
細菌が免疫力に攻撃されないので、治療中に細菌感染させてしまうと、その後は細菌のやりたい放題になってしまうわけですね。

治療が終わっているのに強い痛みが残る場合、こういうことが原因になっていることも多いように感じます。


さて、戻ります。

銀歯を外しました。
接着剤が歯に残っています。
接着剤を取ると、その下に黒いむし歯が見えてきました。
一通りむし歯を削り取りましたが、まだ残っているかもしれないので、
むし歯だけを染めてくれる染色液をつけ、
染色液を水で洗い流します。
緑色が残ったところが、まだ削る必要のあるむし歯です。
緑色の部分だけを狙って最小限の量で削ります。
その後、再び染色液で確認→削る、を何度か繰り返し、むし歯を取り切りました。

これでむし歯はなくなり、残っているのは健康な歯のみです。
次に、この段階で残った歯が、噛む力に耐えられる強度を持っているかを判断します。

治療前に残せると予測していた2つの山は、十分な強度を持ったまま残すことができる、と判断しました。

そして、隣の歯との間の部分は、

隣の歯を傷つけることなく、最小限の削り方で整えました。

このことは、こちらの記事「ダイレクトボンディング治療で、隣の歯を傷つけないために大切なこと」で詳しく解説していますので、よろしければご覧ください。


これで、

  • むし歯のない健康な歯
  • 噛む力に耐えられる丈夫な歯

だけが、残った状態になりました。
あとは、失われた歯をセラミックで復元します。


ただ、セラミックを入れる前に、この段階でやっておく大事なことが一つあります。

削り終わった歯の穴の中でも、
緑色の部分は、象牙質です。

同じ歯でも、
象牙質:体の内側の組織。
エナメル質:内側の組織(象牙質や歯髄)を保護するための「よろい」の役割。

象牙質は、「よろい」に守られているはずの組織です。
ところが今は、外の世界に露出しています。

露出したばかり、かつ、清潔な環境の、今の段階で象牙質を保護する必要があります。


その処置は、IDS(Immediate Dentin Sealing)と呼ばれます。
露出した全ての象牙質を、むし歯を削った段階ですぐにコンポジットレジン(「人口よろい」)でカバーすることを意味します。

治療後に神経の症状が出にくいことや、最終的に被せるセラミックスが取れにくいことなどの大事な効果があります。

IDSの手順を始めます。

まずはエナメル質だけにエッチング処理(酸処理)。
エッチング処理が終わったところ。

とてもわかりにくい変化ですが、エナメル質がくすんで白くなっています。

プライマー処理。
次のステップ(ボンディング処理)でボンディング材が歯によく馴染むための処置です。

規定を守って処理します。
(「20秒処理後、弱~中圧のマイルドなエアーブローで5秒以上乾燥」製品添付文書より)
ボンディング処理。(1つ前の写真と違いがほぼ分からないですが…w)
コンポジットレジンが歯にくっつく(接着する)ための接着剤です。

こちらも、規定を守って処理します。
(「全体に塗布後、マイルドなエアーブローにより、できるだけ均一な層にする。」製品添付文書より)

ボンディング材に光を当てて硬めます。
こちらも規定を守ります。
(できるだけ近づけて、直角に当てる。1ヶ所あたり10秒間当てる)

いよいよコンポジットレジンで象牙質を保護します。

コンポジットレジンでの保護が終わったところ。

これで象牙質は、「人工よろい」としてのコンポジットレジンによって、完全に保護されました。

IDSを成功させるためには、むし歯を削る段階からこのような道具↓を使います。

これは歯を削る量を把握するための道具です。
この道具を使うことで、

  • 歯を削る量を最小限にすることができる。
  • セラミックが欠けたり割れないための必要な厚みで作れる。

というメリットがあります。


このあと、型をとって仮歯を入れて、処置は終わりです。


全ての治療が終わったら、患者様に治療内容の報告をします。
治療中の写真を見ていただきながら、10分間ほどお話をします。

患者様からは、不安なことやご質問などがあれば些細なことでもお話しいただき、納得、安心していただけるまで私から説明をします。

できるだけ、疑問や心配なお気持ちのない状態でお帰りいただきたいので、この時間を大事にしています。


今日はむし歯を削って型取りまでの内容でした。
次回の記事で、セラミックを歯に接着するステップをお話しします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


皆さまが快適なお口と健康な体で、楽しい毎日を過ごせますように
YF DENTAL OFFICE

名古屋市千種区池下 ナゴヤセントラルガーデン内
歯周病治療、歯内療法、審美歯科、セラミック治療、インプラント、ダイレクトボンディング、歯の移植、予防歯科、総合治療
「大切な歯をできるだけ削らない、歯と神経を残す」歯医者|YF DENTAL OFFICE投稿タグダイレクトボンディングラバーダム名古屋歯医者