深い虫歯を、神経を残して治す。(後編)

こんにちは。

前編では、深い虫歯に対する初診時のお話でした。

今回は、いよいよ来院2回目、治療のお話です。
歯髄を残すために、MTAという材料を用いた処置をします。

では、続きを見ていきましょう。

初診のまとめ

この写真は、初診時に応急処置を終えた状態です。

初診仮封

仮のお薬を入れて初診は終えました。

入り口の虫歯だけとって、中を消毒した後、お薬を入れて刺激が伝わらないようにしています。

その他に、お口の中全体のクリーニングを行い、環境を整えました。
患者さまには次回治療日までの間、歯磨きをしっかり行っていただくようにお話しました。

また、現状と治療内容の説明、今後の進め方を説明し、
ご自身で治療法の選択をしていただきました。

 

来院二日目

今回のむし歯は神経まで達する深さなので、従来ならば神経を取る可能性が高いですが、
MTAという材料を用いることで神経を残す治療を行います。

予約は1時間いただきました。

MTAとは

ケイ酸カルシウムを主体とした、歯内療法において様々な用途で応用できる材料。
露出した神経に用いる材料としては、従来の水酸化カルシウム製剤がありますが、それにくらべて、

  • 生体親和性
  • 封鎖性
  • 抗菌性
  • 硬組織形成能を持つ

という特徴があり、従来では神経を取らなければいけなかったケースも、神経を残すことが可能になりました。
(症例によります。全て残せる訳ではありません。)

また、そのほかに、歯にあいた穴の補修、形態が破壊された根の中に詰める薬として、
など、広く応用できる優れた材料です。

虫歯治療の準備

今回は、明らかに虫歯が歯髄まで進行していることがわかっていて、
MTAを用いて歯髄を残す治療をすることが決まっています。

 

むし歯を取りきってMTAを使う前に、治療の成功率を上げるために、一手間加えます。

(文章では分かりにくくなりますが、)
一度仮の薬を外してから、一番深い部分の虫歯だけを残して虫歯を削り取り、
大きく穴が空いた部分を、別の接着性樹脂で復元しました。

この樹脂は歯と完全に一体化するので、
歯髄の処置中に、周りの唾液が歯の中に入ることで起こる細菌感染を防ぐことができます。

その状態の写真です。

治療前

白い仮の薬が、接着性樹脂に置き換わっています。

これで、隣の銀歯と接してる部分に、唾液の侵入を防ぐ壁ができました。

 

ここまでしなくても処置は出来ますが、もしも予後が良くなかったときに、

あの壁が無かったからかも…?と、原因になり得る要素を残しているよりは、
やることは全てやった、じゃぁ、何が原因なんだろう?
と考えた方が、原因を特定しやすいことも、この処置を入れている理由の一つです。

 

青いのは、ラバーダムといって、
唾液や血液を歯の中に入れないためのゴムのシートです。

MTAを用いても、唾液などの感染源が歯に侵入すれば、神経は感染して治療の成功率が下がります。

むし歯除去〜MTA
むし歯を取り切る

ここまできたら、樹脂の奥に残してあった、深い部分のむし歯を取り切ります。

すると歯髄に通じていて…

露髄

出血があります。

むし歯に触れていたために、歯髄は炎症を起こしています。

むし歯をとったら次に、
傷んだ出血している歯髄を、炎症の程度の弱い歯髄が出てくるまで、清潔なドリルでカットします。

治療中の感染を防ぐ

大切な歯髄が傷んでいて、さらに、そこをカットするわけですので、
体としてはかなり内部まで触られていることになります。

もし、治療中に唾液などの感染源が入れば、
治ろうとしている残した歯髄は細菌感染を受けて、死んでしまいます。

それを防ぐために、準備として接着性の樹脂で壁を作り、ラバーダムを使い、
二重の感染対策をしました。

MTAで歯髄を覆う

カットした歯髄からの出血が止まったら、MTAで歯髄を覆います。

MTA覆髄

中では、歯髄はMTAに触れています。

歯の中では、これから3−6ヶ月かけて、MTAに沿って新しい歯が作られます。

空いている穴はこのあと、樹脂で補強し表面を整え、機能を回復します。

 

術後は、数日間違和感があった程度で強いお痛みはありませんでした。

これで、神経を神経を残して、歯を守ることができました。
神経を残すことは、歯の寿命を延ばすことにつながります。

 

治療のポイント

  1. 術中の感染を防ぐ
  2. 生体親和性、封鎖性、硬組織形成能のあるMTAを用いる

今回、MTAを用いた治療法をご紹介しましたが、肝心の材料は一番最後に使っただけでした。
多くの時間を、そこに至る準備の処置に使っています。

 

もし、準備の処置がおろそかなら、MTAを使っても失敗してしまいます。

一番大事なことは、

最新の方法や材料を使うことではありません。

生体の反応(創傷の治癒)と、方法や材料の特徴を理解した上で、
治癒力が最大限発揮されるための治療法を選択することです。

このことについては、次回お話ししたいと思います。

もちろん、その上で、精密な処置が必要なことは言うまでもありません。

 

今日は、最後に重い内容になってしまいましたが、大切なことですので、少しお話ししました。

次回に続きます!

 

藤井歯科医院・副院長
藤井芳仁