歯ぐきの奥までむし歯の進んだ歯に必要なこと(フェルール)

あけましておめでとうございます。

遅くなってしまいました。

 

2016年が始まって2週間、皆さんいかがお過ごしでしょうか。
私は子供たちと長い時間を過ごすことができ、リラックスできたお正月でした。

お仕事をしている方や、ママさんたちは連休明けの疲れが出てくる頃かもしれませんね。
乾燥と寒さが本格的になってきましたので、風邪などひかないように気をつけましょう。

 

私は毎年、新年の新鮮な気持ちを維持しようと思いつつも、
気づいたら日々の忙しさに紛れて時間を過ごし、2月、3月…と時間を過ごしてしまうので、
今年は「今」にしっかり意識を向けて、一つ一つの瞬間を大事にしたいと思います。

さて、今年1回目の今回は、日常的によく遭遇する、
歯ぐきの中まで進んでしまったむし歯についてです。

右下4口腔内写真

今回の歯は、下のセラミックスがかぶせてある歯です。

歯だけ見ると一見、大きな問題はなさそうでしょうか。
色がご自分の歯と合っていないかな、というくらいでしょうか。

しかし、歯ぐきとの境目には、

右下4隙間

隙間があります。
この隙間には汚れや細菌のかたまりが、詰まってしまっていました。

今回は、この隙間を改善するために治療を行うことになりました。

 

この歯は過去に神経を取ってある歯なので、隙間の細菌が原因でむし歯が進んでも、
痛みや違和感は歯では感じることができません。

 

ご本人で感じるとしたら、
・この隙間の細菌による、歯周病の症状か、
・むし歯が進行した結果、根の強度が落ちて折れたり被せ物が取れて、
お気付きになるかです。

どちらもある程度進行してやっと起きることなので、そうなる前に手を打っておきたいです。

レントゲンではこんな感じ。

IMG_0620

被せ物を外してみると、

IMG_1286

白いのは残っている接着剤です。

接着剤の層が不均一でぶ厚目に見えます。
やはり被せ物の精度はあまり高くなかったのかもしれません。

接着剤を取ると、

IMG_1288

金属製の土台が見えています。

レントゲンでは、

右下4デンタル

 

一度神経を取ってしまった歯は、歯の中の細菌をゼロにすることはできません。

もしも、その細菌がたくさんいると、いくら新しく作った被せ物がぴったりでも、
根の中で気付かないうちに細菌が増殖し問題を起こすので、今回は、根の中も綺麗にすることにしました。

その治療のために、金属製の土台を外してみたところ...

右下4コア除去

歯ぐきの上に見えている歯が、ほとんどありません。

金属の土台の周りは、ツギハギに様々な材料で埋めてあり、
その隙間にも細菌感染があったため、それらを綺麗に取り除き、
長持ちする健康な歯だけにした結果、これだけしか残りませんでした。

斜め上から見ると、

IMG_1371

歯ぐきの中の歯ぐきが、赤く見えていますね。
ここは本来、歯で隠れていて見えない部分です。

そこが見えてしまっているほど、自分の歯が無いということです。

裏側から見ると、

IMG_1373

やはり、手前側、健康な歯は歯ぐきに隠れて見えていません。

 

このように、歯ぐきの上に健康な歯がない状態のまま被せ物を入れると、
様々な問題が起こる原因になります。

長持ちするためには、
歯ぐきの上に健康な歯が出ている状態で、土台、被せ物と修復していく必要があります。

 

この、歯ぐきの上に出る歯の部分を「フェルール」と呼びます。
例えば、今回の歯ですと、一部分にごくわずかだけフェルールがある状態です。

長持ちのために必要なフェルールの基準は、
高さ1.5〜2mm、厚さ1mm、全周の75%以上必要、とされています。

フェルールのルール

そして、被せ物がフェルールを抱えるようにつかむことを、フェルール効果といいます。
被せ物が、歯を外側から抱える状態です。

フェルール効果

歯ぐきの上にたくさん自分の歯があるほど、フェルール効果は強く発揮されます。

 

フェルール効果が得られると、

  • 歯根破折(根が折れること)の防止
  • 被せ物が土台ごと取れてしまうのを防止

することができます。

 

逆に、この二つを防げず繰り返すと、最終的には抜歯に至ることがあります。
フェルールがあると、治した歯が悪くなりにくい、長持ちさせやすい、ということですね。

 

そして、フェルールがない状態とは、

フェルールなし

歯ぐきの上に歯が出ていない状態です。

そのまま土台、被せ物をつけると、

フェルールなし修復

被せ物は土台(青色)を抱えているだけで、自分の歯をつかんでいません。
また、被せ物の縁は、歯ぐきの中に深く入ることになります。

 

歯は様々な方向に力を受け、根っこに対しては横方向の力もかかります。

フェルールがないと、被せ物による外側からの抱え込みがなく、
土台が歯を開く力がかかってしまいます。

歯根破折2

根をコジ広げる力がかかり、根にヒビが入ってしまったり、
→ヒビが入ると抜歯の可能性が高い。

コアごと脱離

抱え込みがなく土台が揺さぶられるので、土台ごと外れてしまったりします。
→やり直すと残っている歯はどんどん小さくなり、使えなくなる。

 

過去にフェルールが十分ないままに土台、被せ物と治療を終えた方で、
このように根が折れたり、被せ物が取れて受診なさる方はよくいらっしゃいます。
(統計を取ってい無いので、曖昧な表現で申し訳ありません。。。)

 

これら2つの問題を防ぐために有効なのが、フェルール効果なのです。

 

そして、歯ぐきの上に歯があると、フェルール効果が得られるだけではなく、

  • 精度の高い被せ物を入れるための型取りなどの作業が精密に行いやすい。
    二次むし歯予防
  • 被せ物(=生体ではなく人工物)を歯ぐきの奥深くまで入れなくて済む。
    健康な歯ぐきを維持しやすい

と、様々なメリットがあります。

 

そして、フェルールのない歯にフェルールを得る方法が、

  • Crown lengthening(歯冠長延長術:歯ぐきの位置を下げる)
  • Extrusion (挺出術:矯正治療のひとつ。歯を引き上げる)
  • 外科的挺出術(一旦抜いて歯の位置を浅い位置で戻す)

です。

どの方法で行うかは、部位や状態、期間によって、選択します。
これらの方法でフェルールを得ることは、とても有効な方法です。

 

フェルールのある状態で被せ物を入れたほうが長持ちするので、
治療開始前に、このような深いむし歯が疑われる場合は、必要性をお話しし、
フェルール獲得後に被せ物を入れるか、フェルールなしで被せ物を入れるか、
患者様に選んでいただいております。

 

すぐに被せ物を入れるより、治療期間が長くなるデメリットはありますが、
大切な歯の寿命が長くなるという、何にも変えがたいメリットがあります。

短い治療期間ももちろんメリットですが、体を守るためにはできれば必要な期間もある、
ということを知っていただけたら幸いです。

 

このような大切な選択肢を知っていて選択しないのは、もちろんありです。
今回は短く終わりたい、歯ぐきを触るの怖そう、というのだって大事なことだと思います。

やるかやらないかだけではなく、
患者様が正しい情報を知り、自ら決めることが、とても大切なのです。
(専門的な内容も多いので、もちろん相談しながら)

 

しかし、ご自身の状態とこれらの説明を受けずに、治療を終了して
知らない間に歯の寿命が短くなっていらっしゃる方が多いのが現実です。

 

まずは正しい情報を知っていただきたいと思います。
そのような医療を受けていただきたいと思います。

 

フェルールを得るためのそれぞれの方法についての詳細は、またの機会に書きます。

 

今日も長い記事を読んでいただき、お疲れ様でした!

素敵な週末をお過ごしください!

 

 

皆さまが快適なお口で、楽しい毎日を過ごせますように
藤井歯科医院・副院長
藤井芳仁

名古屋市天白区植田
歯周病、インプラント、審美歯科、歯内療法、予防歯科、
総合治療の藤井歯科医院