歯がないまま放置したために、反対の歯が出てきてしまったとき。(歯冠長延長術・クラウンレングスニング)

こんにちは。

今回は、長年歯を失ったまま放置してしまったために、噛み合わせの歯が出てきてしまい、
そのままでは歯を増やす治療ができない状態への治療のお話です。

ご紹介する治療は複数本ですが、1本でも起こることですので、
歯がないまま放置してしまっている方は、参考にしていただけたらと思います。

歯と歯周組織が下に移動しまっています。 歯:黄色→オレンジ 骨:水色→青

歯と歯周組織が下に移動しまっています。
歯:黄色→オレンジ
骨:水色→青

下の歯を失って以来、入れ歯やインプラントなどで補わずに、
そのままで過ごしていらっしゃいました。

その間に上の奥歯4本は、下の歯から噛む力を受けなかったために、
下へ移動してしまいました。

 

このとき、歯だけが歯ぐきから伸びるように出てくるのではなく、
歯ぐきと一緒に全体的に下方向へ移動します。

歯ぐきごと大陸移動のように動く感じです。

 

お口の中は、こうなっています。

歯がなくなった下のあごのスペースに、上の歯があります。

歯がなくなった下のあごのスペースに、上の歯があります。

歯が下に落ちているだけではなく、歯ぐきも下方向に移動しています。
(歯の長さは長くなっていません。)

上の歯は下の歯ぐきに触れていて、歯を失った下あごにスペースがありません。

 

患者さまのご希望は、「噛めるようにしたい。」ということでした。
しかし、このままですと、下の歯を失ったスペースに入れ歯やインプラントを入れることができません。

 

このように歯を失った後に、隣や噛み合わせの歯が動いてしまった場合には、
スペースを作ることをまず考えます。

具体的な選択肢は、

  1. 矯正治療により、移動した歯と歯ぐきを上方向に戻しスペースを作る。
  2. 歯の位置は移動した位置のままで、歯ぐきを外科処置によって上方向に戻し、その後歯の形を変えてスペースを作る。
  3. このままの位置関係で、上下ともに薄い歯や入れ歯をなんとかして入れる。

 

一番の理想は、1つ目の矯正治療と考えます。

出たものを元に戻す、ということです。
元の状態に一番近く戻すことができます。

しかし、矯正治療の中でも、この場合行う”圧下”という歯の移動のさせ方は、最も時間のかかる方法です。
得られるゴールは一番高いですが、道のりもそれなりに盛りだくさんです。

 

3つ目の方法は、一番避けたい方法です。
しかし、残念ながら、この方法で入れていらっしゃる方が一番多いのが現実だと感じます。

今回の患者さまも、1つ目と2つ目の選択肢があることは、以前通っていらした歯科医院さんから
お話はなく、3つ目方法の説明のみだったとのこと。

それで嫌になってしまい、さらに放置してしまったとのことでした。

そのように治療した場合、取れやすかったり、掃除がしにくい形だったりして、
結局長持ちせず、最終的に歯を失うこともあります。

 

今回、患者さまとは複数回のカウンセリングで十分に相談を行い、
患者さまは2つ目の方法でスペースを作ったあとに、下あごには入れ歯を使うことを選択なさいました。

 

外科処置によって歯ぐきだけを上方向に形を変える、と言うのは、

まず、
下がってしまった歯ぐきと骨を切ったり削ったりして、外科的に上方向に形を変えます。
歯ぐきが上に形を変えた分、歯の長さを長くできます。

次に、長くなった歯を短くし、短くした分、空いたスペースを下の歯が入るスペースに使う、という方法です。

 

この、歯ぐきと骨を外科的に処置し、歯の長さを長くする方法を、
歯冠長延長術(クラウンレングスニングcrown lengthening)と言います。

 

写真で見てみましょう。

仮歯

まず奥3本を仮歯に置き換えます。一番奥の歯は少ししか写っていません。

仮歯に置き換え、今後の様々な治療経過に対応できるようにします。

↑の歯は、神経を取り、土台を入れました。

↑の歯は、神経を取り、土台を入れました。

今回の治療では、最終的に歯の長さを短くします。
そのときに、神経がある歯は神経の位置まで削ることになるので、
あらかじめ神経を取り土台まで入れます。

 

神経は取らないほうがいいのですがこの場合は、やむを得ません。
ラバーダムと清潔な処置で感染を防ぎ、最小限の削る量で神経の処置をします。

真ん中の歯は過去の経過で既に神経がとってありましたが、再度根の治療を行い、
将来起こる可能性のある、根尖性歯周炎のリスクを最小限にすることに努めます。

 

そして、このあと、歯冠長延長術を行います。

歯と歯ぐきを外科的に上方向に移動しました。

歯と歯ぐきを外科的に上方向に移動しました。

黒いのは縫い糸です。
歯が長くなっているのがわかりますか?

比較してみましょう。

歯ぐきの位置は、緑→青へと変わっています。

このあと、長くなった歯を短く調整し、被せ物を仮歯から最終的なものに置き換えたのがこちら。

下顎との間にスペースができました。

下顎との間にスペースができました。

一番奥はゴールド、前2本はセラミックスの被せ物です。

初めの写真と比較してみましょう。

スペースが生まれました。

スペースが生まれました。

これで下の歯のない部分に、入れ歯を作ることができます。

スペースに入れ歯を作ることができました。

スペースに入れ歯を作ることができました。

pd正面

今回の治療は、外科処置や神経の治療など、患者さまにはとても頑張っていただきましたが、
その分、安定した結果を手にすることができました。

 

こうなる前に早めの対応をすることが理想ですが、もしも、歯や歯ぐきが移動してしまっても、
理想の位置関係に戻すことによって、安定した将来につなげることはできます。

 

今回ご紹介した方法は、複数本の歯以外にも、1本の歯でも適応される方法です。

例えば、仮歯を用いないで行った根の治療中に、通院を中断してしまい、
隣や噛み合わせの歯が移動してしまった場合にも、
矯正治療や歯冠長延長術などを用いることで、長持ちする状態にすることができます。

 

治療計画には選択肢があります。
どれがいいという話の前に、その選択肢を患者さまがよく知り、自ら選べることが大切です。

そのためには、そのような説明をしてくれる歯医者さんでの治療をおすすめします。

お口は大切です。

 

皆さまが快適なお口で、楽しい毎日を過ごせますように
藤井歯科医院・副院長
藤井芳仁

名古屋市天白区植田
歯周病、インプラント、審美歯科、歯内療法、予防歯科、
総合治療の
「大切な歯をできるだけ削らない、残す」藤井歯科医院